【帳合取引】アウトドア用品はなぜ安くならないのか

このメーカーの商品はどこで見ても定価でしか売っていないな……と思った経験はないでしょうか。

定価でしか売ってないなら、どこかの店が安く出したら絶対ぶっちぎれるのになぜそういうことをする店舗が出てこないのだろうか?

元メーカー勤務で流通業の中にいた人間としてその理由を解説します。

目次

商流という概念、帳合という概念、帳合先という概念

まず、商流という概念があります。

(素材屋→)メーカー→問屋→販売店→お客さん

というのがこの記事で言う商流の概念です。

商流にはもう少し細かい見方があります。
流通業ではよく使われる言葉で「帳合」と言います

帳合(ちょうあい)とは、卸売・小売業界においては仕入れ・販売の取引関係のことです。 特定の業者間で継続的な取引が行われている状態を「帳合取引」と呼びます。

引用元:free

つまり、こういうことです。

帳合とは、つまりはメーカーと問屋、問屋と販売店の縦の強いつながりのことです。

例えば〇〇商店は問屋A、問屋B両方と取引をしていても、□□メーカーの帳合は問屋A、△△メーカーの帳合は問屋Bだから、それぞれ別の問屋から仕入れなくてはならない、というのが帳合取引です。

面倒くさい取り決めです。

帳合を破壊するとどうなるか

この帳合取引を壊すことはなかなか大変なことです。

販売店が問屋を飛ばしてメーカーと直取引をした場合

問屋は「このメーカーは販売店と直取引をする。ということはこのメーカーの仕入額は小さくなっていく。それなら取引をやめてしまおう」と考えます。
そうするとどうなるかと言うと、その問屋が卸していた先の販売店に商品を出せなくなり、メーカー側の売り上げも下がってしまいます。
だから、販売店が問屋を飛び越えてメーカーに直談判に来たとしても断らなければなりません。

崩壊を図解

問屋Aが問屋Bの帳合先を横取りした場合

例えば問屋Aが既にできている帳合に横入して、商品を100円安く販売店に卸せますよと持ちかけることもありますが、これは重大な裏切り行為とみなされ、各方面からの信頼失墜につながってしまいます。

これを防ぐために、メーカーは卸価格というものをある程度設定します。

通常の卸価格が100円とするなら、毎週100個仕入れてくれる問屋には80円で卸す、ということももちろんあります。

これは取引実績と、それに裏付けられた信頼(=帳合を破壊しない倫理観)があるからこそできる取引です。

つまり流通業とは、360度全方位が忖度と暗黙の了解と紳士協定で成り立っている業界です。

崩壊を図解

価格破壊が起きるということは

ようやく、なぜ値下がりしないメーカー商品があるかという本題に対する答えです。

つまり安売りされるということは、”メーカーが卸価格のコントロールができていない”ということが大きな要因の1つです。

メーカーが問屋Aには50円で卸して、問屋Bには100円で卸しているとしたら、もちろん問屋Aの帳合先である販売店は、それだけ安価に販売できるということになります。

値下がりしないあのメーカーは、しっかりと卸し価格を管理して、帳合を乱さない信頼のある問屋との取引を徹底しているのでしょう。

高額転売だけが問題ではない

なにか物珍しい商品が発売されると必ずセットで問題が起こる高額転売ですが、彼らの言い分は「買えない人にも買えるチャンスを作っている」ということらしいです。
それなら定価以下で売れ、という檄を飛ばすまでが一連の流れですが、実は安く売られるというのもメーカーにとっては頭の痛い問題です。

メーカーとしては、安く売られて良いことはありません。

私が勤めていた会社も所謂せどりの餌食になる時期があって、図に乗ったせどり屋が「100個売りさばいてやるから直取引させてくれ」と本社に電話をしてくることがままありました。
こちらは1カ月で1万個を定価で売ってくれる販売店と取引していることなど頭にないのでしょう。

簡単な問題ではない

この記事を読んで、モヤモヤを抱えている人もいると思います。
末端価格が変わらないようにメーカーがコントロールする、”信用”の名のもとに定価での販売で縛り付ける……それは独禁法違反なのでは?

その疑問ももっともで、実際、キャンプ用品のコールマンが指摘されています。

ざっくり言うとこう。

・販売価格の下限はコールマンが決めます。
・在庫処分のセールはコールマン側が指定した日付以降意外認めません。

これが独禁法違反として摘発されました。

上でつらつらと述べた取引の実態も、見方によっては同様にとらえられるかもしれません。
そうならないように、メーカーはこういったルールや価格に対するお願いを明言しません。
安売りしている販売店の仕入経路をねっとりと探し出し、その販売店へ卸している問屋に対してこっそり在庫を絞ったり、割り当てを遅らせたりして抵抗しています。

しかし、これも指摘されても問題にならないのかはよくわかりません。

まとめ

海外でのプライシング事情は存じ上げませんが、日本では”公正な価格発見機能”が失われたと言われて久しいです。

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長く続いたデフレによって、日本において価格とは需要と供給のバランスで決まるのではなく、お客様のために可能な限り薄利にするというド根性が魂に沁みついてしまい、こういった巨大な忖度取引が崩せない状況になってしまっているようです。

アウトドア用品が安くならない理由は、メーカー、問屋、販売店が短期的な利益ではなく継続的な取引を末永く続け、消費者を含めた関係者全員の利益を最大化するためにたゆまぬ努力をしている結果ですが、需要と供給という本来の自由市場の考え方からはちょっと外れているかもしれません。
ということはつまるところ、アウトドア用品が安くならない理由は、もしかするとアウトドア用品が高くならない理由でもあるのかもしれません。(転売は除く)

しかしこういった紳士協定も、日経平均株価が過去最高額を更新し続ける2024年内に、もしかしたらメスが入るかもしれません。
“公正な価格発見機能”を取り戻したら、物価とセットでようやく日本人の給料も上がっていくのかも?

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