私はこれまで転職を2回経験しており、現在3社目です。
キャリアの中では転職エージェントだった時代もあるし、今は人事です。
毎年、冬になると友人から転職の相談について連絡をもらう機会が増える傾向にあります。
自分自身は2回転職をしており、かつ転職エージェントの立場で色々な転職を見てきているので、ちょっと転職について語ろうと思います。
しかし、転職の記事を書くとブログ全体のgoogle検索順位が下がるというまことしやかな噂も聞くので、そういう状況になったらこの記事はすぐに消します。
転職エージェントの仕事
転職エージェントのビジネスモデル
転職エージェントは、転職希望者は基本的に無料で使うことができます。
しかし、大手転職エージェントは上場していることも多く、決算書を見るとやはり売り上げが立っているわけで、それはどこかからお金をもらっているということです。
お金は企業、つまり求人を出している側が払っています。
お金はほとんどが成功報酬型で、採用が成功した(=入社日に入社したことを確認できた)タイミングで発生します。
金額としては年収の25-35%が相場でしょう。
つまりAさんが1,000万の理論年収で転職した場合、転職エージェントへは250-350万が入ることになります。
無論、この手数料は企業側は”採用経費”として捻出していますので、転職者の年収から引かれているわけではありません。
転職エージェントは毎日なにをしてるのか
転職エージェントと呼ばれる仕事には大きく分けて2つあり、”企業担当”と”転職希望者担当”に分かれます。
企業担当には各企業ごとにイケてる名前を付けていますが、それを迂闊に書くと私の出身企業がバレそうなので日本語で表記しています。
企業担当
転職エージェントの営業職と言うと、基本的には企業担当のことを指します。
企業担当はその名の通り企業を担当しています。
担当社数にはかなりばらつきがあります。
1社で100件の求人を出す企業もあれば、1社で1件のみ求人を出す企業もあるので、担当社数で測れる指標はあまりありません。
逆に、”求人数”として、ちょっと多すぎだな、少なすぎだな、みたいな感覚はあります。
求人推薦率、つまり1求人当たり1名以上の候補者を紹介できているか、みたいな指標もあるので、これが下がっていると「サポートできていない企業が出てきてるな……」とちょっと危機感です。
企業担当のミッションは概ね”採用活動を通して企業の課題を解決する”ことです。
それを噛み砕いていくと、“企業にマッチする良い人を紹介する”という仕事になります。
イケてる企業担当は、単に求人を企業からもらってくるのではなく、企業が叶えたいことをヒアリングして、確かにその課題は誰かを採用することで解決できるな、と納得してから求人を作っていくという仕事をします。
もちろん大企業にもなると求人票は固まった状態で人事から発行され、採用システムを通して登録エージェントに配布されるのですが、一方でまだ採用に不慣れな企業に対して、エージェントはものすごい介在価値を発揮する傾向にあります。
かなり極端に端的に言うと、”売り上げが伸びないから営業マンを採用したい”と相談をもらう企業に対して、なぜ売り上げが伸びないのかの原因を考えて、もしかすると購買調達の問題なのかもしれないとなると営業マンではなく強気な調達マンが必要なのでは? と提案するし、営業マンが定着せずにマンパワーが不足しているならもしかすると人事制度に問題があるかもしれないから、人事制度構築ができる人を採用してみては? など提案したりします。(雑な例ですが)
そういう仕事を通して、担当した企業の業績が伸びたり、新たなブレークスルーが起きたりするとかなり嬉しいし、仕事が楽しく感じます。
企業担当はそうやって、色んな会社の経営層と話し合いながら、担当企業の課題を解決するにはどんな人材が必要なんだろう? と毎日考えて、営業活動を行っています。
転職希望者担当
キャリアアドバイザーとよく呼ばれる人たちです。
転職エージェントのサイトなどに登録をすると、この人たちと最初に会うことが多いです。
職種によって担当が分かれたり、業種によって担当が分かれたりします。
例えばA社は経理、営業、機械エンジニア、ソフトエンジニア……だったり、B社は製造業、サービス業、IT……という分かれ方があります。
キャリアアドバイザーは、とにかく毎日面談をしています。
一日1時間×10人とか話すこともあります。
キャリアアドバイザーの管掌がどこまで及ぶかは企業によって異なりますが、基本的には面談と、面談をした人の求人のマッチング、面接日程調整のフォローまでを行っています。
キャリアアドバイザーはプロなので、面談した人の本当の欲望がどこにあるのか注意深く観察しています。
この人たちは基本的に人の言葉を信じていません。
「年収は多少下がっても良いが、通勤距離を短くしたい」と言っていたが、受ける求人は条件の良いものばかり。
「今の会社では成長できないから、もっとハードに成長できる職場に転職したい」と言っていたが、実際は大企業に入りたいだけで成長できる環境かどうかは二の次。
そういった、もしかしたら本当に自分でも気づいていないような本音を、イケてるキャリアアドバイザーはその人の言葉ではなく行動から見抜いて、マッチングの精度を高めていきます。
このような洞察力を、内定を取った後のクロージングで使ってくるキャリアアドバイザーもいます。
どういう目標を追っているのか
企業担当も、転職希望者担当も仕事なので目標を背負っています。
ほとんどの企業で“金額”もしくは”人数”の目標を課されています。
1カ月の売り上げで800万を追っているのであれば、1,000万の35%=350万を2案件、500万の35%の175万を1案件で達成だな、とか。
1カ月で3名の転職を成功させる、とか。
金額を目標に置くか、人数を目標に置くかで動き方も変わってきます。
金額が目標なのであれば、とにかく高単価案件を中心に動いていくということもありますし、人数を目標に置くのであれば単価には関係なく動きが速そう(=実際に本気で転職活動をしていそう)な人を積極的にサポートしたり。
どっちにサポートしてもらうのが良いのかは、わかりません。
なぜ人事は転職エージェントを使うのか
成功報酬が年収の25-35%という数字は、世界中から見ても劇的に高額だそうです。
外資系人材紹介会社のランスタッドによると、海外の成功報酬は年収の10-20%で、日本の半分以下です。(ランスタッド社HP)
しかもそもそもエージェントを使っての転職比率も海外は低いみたいなので、日本企業がいかに採用にお金をかけているのかがわかります。
では、なぜそこまでして人事は転職エージェントを使うんでしょうか。
人が集まらな過ぎる
転職エージェントと双璧を為す採用経路として、求人媒体があります。
マイナビとかリクナビとか、求人がいっぱい載っているサイトです。
あれは成功報酬ではなく掲載期間に対してお金を払っているので、採用できようができまいが定額を払う必要があります。
大人気で放っておいてもザクザク採用できる企業、ポジションであれば、エージェントではなく求人媒体を使うでしょう。
しかし、それではなかなか採用できないという場合は掲載費用を垂れ流すことになってしまうため、エージェントに相談を持ち掛けます。
エージェントは一人ずつに求人の説明をして応募を促してくれるので、結果的にマスに向けて求人媒体を使うより応募数が多かったりするケースもあります。
忙し過ぎる
求人媒体で募集をすると、あまりにも応募が来てしまうケースがあります。
あまりにも応募が来る割には、「入社してほしい!」と思える人が少なかったりもします。
毎日100-200件も書類選考をして、選考通過できるのは1名、しかも面接をブッチされる……みたいなケースもあります。
これでは人事は他の仕事ができなくなってしまいます。
そうなると転職エージェントの出番です。
転職エージェントは、”企業が採用したい人”を理解してくれているはずなので、この人だ! という候補者にピンポイントで求人を紹介して、応募を取ってくれます。
一日100-200名の書類選考で1名通過する世界から、ひょっとすると一日3件の書類選考で3名通過する世界に変わるかもしれません。
これは素晴らしい投資対効果と言えるでしょう。
採用ターゲットがニッチ過ぎる
特定の分野の特定の技術を持っている人が採用したい、となると求人を出して受動的に応募を待っていてもなかなか採用できません。
企業側もスカウトメールを送ったりするでしょうが、こういう場面でも転職エージェントは力を発揮してくれます。
転職エージェントは膨大なスカウト市場(ビズリーチなど)から人を探して、応募を取ってきてくれます。
これがもっと特化していくと、ヘッドハンターの出番になるでしょう。
少し前の本ですが、googleの採用についての話が書いている本がとても面白かったです。
秘密裡に採用を進めたい
様々な理由から、堂々と採用を行えない場合もあります。
まだ世間に公表されない新規プロジェクトに必要な人材を採用したい、今の部長のリプレースをしたい、あるいは大手企業とパイプを作るためにその会社に在籍している人を引き抜きたい、など。
そういう場合にも、求人媒体やホームページに求人を載せるわけにはいかないので、転職エージェントやヘッドハンターに「秘密でお願いね!」と言って応募獲得を依頼するケースもあります。
転職エージェント的にはconfidential案件とか言ったりもします。
「他のエージェントには公開していない、あなただけにしか頼んでない求人だよ」なんて言われたら、エージェントはかなり気合いが入ります。
転職をするべきか? と相談されたときに話すこと
前提として、まだ若手~中堅どころ、明確にやりたいことはないが何か悩みがあって転職を考えてる人に向けての内容とします。
明確にやりたいことがあって、それが現職で叶えられないならさっさと転職したら良いと思います。
そうではなく、例えば現職でうまくいっていないとか、なんとなく将来に不安がある、みたいなケース。
だいたい25~34歳くらいまでのサラリーマンが考えることかなと思います。
こういう場合に「ツラかったら逃げても良いんだよ」みたいなことを言う人は、逃げた後の責任なんて取らないし、あなたが逃げている間も自分は逃げずに戦って、どんどんキャリアを築いていってしまいます。
私はそういう人が大嫌いです。
今の職場に味方はいるか / 転職先では味方はいないかもしれない
今の職場に味方はいるか、ととりあえず聞いてみます。
味方とは、叱らない人とか怒鳴らない人とか、優しい言葉をかけてくれる人ではなく、なにかを相談できる人、相談したら立ち止まってくれて一緒に解決策を考えてくれる人のことを指します。
転職をすると、この人の助けを借りることができなくなります。
そして、次の職場に同じように味方がいるとは限りません。
そのリスクを負ってまで転職をすることができるか自分で確認してくださいと話してみます。
そもそも転職はリスクがめちゃ大きい
転職すること自体がそろそろ世間一般にも受け入れられていますが、とはいえ人材の流動性はまだ小さく、このギャップがそのまま転職のリスクとして圧縮しきれずに残っています。
転職はすればするほど、しにくくなります。
当たり前ですが、ちゃんとした成果を残さない限り1回、2回、3回、4回……と続けていくうちに、同格の企業で書類選考が通らなくなっていくのが一般的です。
私は、3年くらいは務めたほうが良い説を支持しています。
なぜならよほど優秀でもない限り、新しい環境で3年以内に”まともに語れる成果”は残せないからです。
なので、カジュアルに転職できるようになり始めた時代だからこそ、1回の転職を大切に本気で考える必要があります。転職後は、3年は働く(=成果を出す)ところまでは頑張る必要があると考えているからです。
そしてこのリスクを大きくしている要素は”人間関係”だと思ってます。
しかもこの人間関係というのは、選考の中で100%見抜くことはほぼ不可能と言っても良いでしょう。
一番不透明なところが、一番肝要なのです。
だから、転職はリスクがめちゃ大きいです。逃げの手段として使うのは最悪の一手、最後の奥の手だと思っています。
このリスクは受容しなければいけないリスクで、回避しようがありません。
だから、何を叶えたいかが一番大事
人間関係という最大のリスクを受容せざるを得ないのが転職活動です。
つまりこのリスクが事故に変わったときに、よりどころとなるものが無ければすぐに折れて、また逃げの転職活動が始まってしまいます。
逃げの転職活動そのものが否定されるものではありませんが、これが続いてしまうと結構厳しい状況にじりじりと追いつめられることになってしまいます。
人間関係はクソだけど、この職場では私が叶えたかったことが叶えられているんだよなあ。
そう思うことができれば、3年くらいは頑張れるのではないでしょうか。
つまり、何を叶えたいかが整理できてない状態での転職は、マジでおすすめしません。
あと、人間関係を改善したいという転職も難しいです。それはただのリセマラなので……
計画された偶発性理論
計画された偶発性理論、計画的偶発性理論という言葉があります。
1999年に発表されたキャリアに関する理論で、かなり古いものですが、未だHR界隈ではことあるごとに取り沙汰されています。
計画された偶発性理論( Planned Happenstance Theory)とは、スタンフォード大学のジョン・Dクランボルツ教授らが提案したキャリア論に関する考え方。
個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこうという考え方。
行動特性
その計画された偶発性は以下の行動特性を持っている人に起こりやすいと考えられる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%88%E7%94%BB%E7%9A%84%E5%81%B6%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%90%86%E8%AB%96
- 1.好奇心[Curiosity]
- 2.持続性[Persistence]
- 3.柔軟性[Flexibility]
- 4.楽観性[Optimism]
- 5.冒険心[Risk Taking]
ざっくり言うと、前向きに頑張ってれば良いことあるよ! ということです。
最終的なキャリアのゴールを決めて、逆算をして必要な実務をこなしていくというキャリアアンカー理論とは反対にある理論で、ゴールはぼんやりとだけ決めておいて、それに向かって頑張っていこう。頑張っていれば、なんかラッキーチャンスが多めに来るから、そのチャンスをしっかりとモノにしていこうという理論。
私はこの理論が結構好きです。
30歳を超えてくるとぼんやりと、「確かに自分の人生はたくさんの偶発的な出来事があったし、意外と線でつながっているかもしれないな?」と感じる方も多いと思います。
あーあのときの経験したことがまさかここに生きるとは……みたいなの、一度は経験ないですか?
転職で生じる人間関係の刷新はリスクですが、上記wikipedia引用の一部にある【冒険心(Risk Taking)】を持ってやりたいことに挑戦すると、思いがけないようなラッキーチャンスが舞い込んで来るかもしれません。
転職活動をするときはどうしたらよいのか?
転職活動の始め方
基本は転職エージェントへの登録で良いかなと思います。
年収800万くらいあればビズリーチに登録したら良いし、それ以外はリクルートで良いと思います。
ビズリーチは企業からダイレクトでスカウトが来るので話が早いし、リクルートは日本で一番多く求人を持っているので。
登録したら、あとはプロに話を聞いて進めればokです。
あと、ネットで転職エージェントについて検索すると、おすすめ転職エージェントの記事がたくさんヒットしますが、あれは広告料順で並べただけの恣意的なランキングが99%なので無視しましょう。
最近は自己分析とかがトレンドですが、あれも広告です。
とりあえずビズリーチとリクルートでok、足りなければ次点を探すで十分だと思います。
絶対に失敗する転職
私の経験則から導いた持論に過ぎませんが、絶対に失敗する転職というものが2つあります。
ひとつ目は、友達の会社から声がかかったからよく考えずに転職。
ふたつ目は、転職理由を曲げての転職。
ひとつ目については、後悔する方が私の経験では100%です。
私がサポートしていた転職希望者で、友達の会社が困っているらしいからとか、立ち上げが面白そうだからという理由でそこに転職したら「あー、半年後に戻ってくるな」って思ってましたし、実際に全員戻ってきました。
ふたつ目については、「年収を上げたい」という転職理由の人が年収は下がるが規模の大きい会社に入社したり、「キャリアアップをしたい」と言う人が、全く同じ仕事なのにIPOを控えているという情報に目がくらんでオファーを承諾したりするケースです。
この場合も後悔率100%でした。
まとめ
- 転職エージェントは実はボランティアではない
- 転職はリスクが伴う
- 転職する目的が本当に大事
- 挑戦したいことは積極的に挑戦したほうが良さそう
- 転職活動は年収が高めだったらビズリーチ、そうでもなければ求人が一番多いリクルートで始めてみるのがおすすめ
Apendix
転職活動をする際に、読んでおくと良いかもしれない本
人を選ぶ技術
2023年に、HR界隈で話題になり、人事としては読んでおけよ的な立ち位置になった本。
こういう質問で人間性を探れ、みたいな具体的な話が後半にあり、面接対策にもなると思います。
イシューからはじめよ
読んでる人も多いと思いますが一応。
面接の話が書いているわけでは全くありませんが、これ読んでると、アッいま自分はくだらない話をしてしまっているな、みたいな気づきを得るきっかけになる気がします。
その年の業界地図
ストレングスファインダー
リッチな心理テストです。
まあ一回くらいやっておいた方が良いんじゃなのかなと思います。
これをやることで、自分の強みってこういう点なんだというのが客観的に数字として出てきますし、そうすると面接でこう聞かれたらこういう話をしようかな? みたいな準備ができるので。
ちなみに私の一番のストレングスは学習欲でした。
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