AI活用の理想と現実

AI、使ってますか?

だいぶ社会に浸透してきて、もはやAIを使わずに仕事をするなど、AIを使わずに調べものをするなど、もう考えられないという方も、結構な数おられるような気がします。

かくいう私も、どっぷりとAIに浸かりながら仕事をしています。

そして少しずつ、AIを使うと早く終わる仕事ではなく、AIがあるからできる仕事というものも増えてきました。

私の場合は、簡単なVBAやGASを書かせたり、HTML/CSSを書かせてDMを作ったりLPを作ったり、自分の専門分野じゃない仕事をしなければならないときに、AIに活躍してもらっています。

私はコードなど全く書けないので、非常に助かっています。

そしてそんなことをしていたら、社員にAIをジャンジャン使ってもらうにはどうしたら良いか一緒に考えようプロジェクトとか、これまで担当してきた仕事をAIに置き換えて所属部門のモデルケースを作ろうプロジェクトとか、そういったものに参画することが増えてきました。

この記事は、そういった仕事を通して、恐らく多くの文系職種の人とは少しだけ異なる角度でAIを見ることが増えてきた中、2025年11月現在感じていることを言語化しようという試みです。

目次

AI活用の現在地

AI活用、できていますよね?

議事録とか、面倒くさいメールの返信とか、営業資料のたたきの作成とか、そういったものは既にAIを使って作っている方が多いと思います。

私が実際にAIを使ってやっている業務をパッと思いつく限りリストアップしてみました。

  • 大量のエクセルの集計・計算の処理を行うVBAをAIに書いてもらう
  • 会議でちょっと調べといて~と話に出たものをdeep researchで調べておいてもらう
  • 登壇するセミナーの原稿のたたきを書いてもらう
  • 主催するワークショップの企画を作ってもらう
  • 会社で利用したいシステムの利用規約を読ませて注意点をピックアップしてもらう
  • slackのリマインダーを作ってもらう
  • 配信するダイレクトメールのHTML/CSSを作ってもらう
  • 社内発信系の原稿の作成とHTML/CSSでの入稿をしてもらう
  • ABテストのパターン出し
  • 気になる動画ニュースの内容をテキストに起こしてもらう

大なり小なりありますが、思いつくところはこんな感じです。

特に企画のとっかかりって一番面倒で着手を後回しにしがちなので、そういうところを強制的に進めてくれるのは大変ありがたい。

あと、仕事ではないけど感動した体験として、パワポのVBA処理があります。

500枚を超えるスライドに、原稿(テキストデータ)を1行ずつ字幕のようにコピペしていくという狂気の沙汰の恐ろしい作業をしている人がいて、試しにChatGPTになんか楽にできる方法ないか? と聞いたところ、パワポもVBAで処理できるで!と教えてくれました。そして、ChatGPTと数ラリーして作ったVBAで処理をしてみると一瞬で作業が終わりました。

基本的に、そういった面倒くさい作業、エンジニアであればチョチョイノチョイでできるであろう作業を私のような人間でもできるようになったな、というのが2025年11月時点のAIに対する感想です。

しかしこれでは、作業効率化できた量よりも、新しい仕事「AIあるからできるっしょ?仕事」のほうが増えている感じで、いつになったらAIが仕事を奪ってくれるんだろうなあ……という感覚です。

AI活用の現実

技術的には可能だが実際は不可能

作業レイヤーのAI活用だけではなく、業務設計を見直すレベルでAIの導入を検討していく中で分かってきたことがあります。

それは、技術的には可能だが、ルール的に不可能なことの多さです。

例えば営業資料の作成を全自動化しようとします。私は昔メーカーで勤務していたので、そのときのことをイメージしてみます。営業資料の作成は以下のような流れになります。カッコ内は、情報の取得元や使用するツールです。

仕事の内容データの参照先使えそうな有名なAIツール
1.商談の主役となる商品を決める
2.商品の見積を作る(社内で利用している商品マスタ)社内で利用している商品マスタChatGPT/Gemini
3.得意先の競合となる店舗での売上をまとめる(社内の売上データ)社内の売上データ/出荷データChatGPT/Gemini
4.他の商品との差別化できる点をまとめる(他社のwebサイトなどの情報源)他社のwebサイトなどの情報源DeepResearch
5.棚割りの企画を作る(Excel、パワポ)Excel(スプシ)、パワポ(スライド)Gemini、GWS
6.企画書に落とし込む(Excel、パワポ)Excel(スプシ)、パワポ(スライド)Gemini、GWS、copilotなど

ざっくり、こんな感じのステップでしょうか。

1~6まで、すべてAIでできますね。

見積はどんなAIでも作れるし、社内の売上データをいい感じにビジュアライズするならGWSのインフォグラフィックを使えば良いでしょう。

ところが、AI活用の現実としてはうまくいきません。

原因は、セキュリティ意識の問題と、ツールの分断です。

まず最初のステップでとん挫です。”わが社の貴重な商品マスタや得意先のPOSデータが流出してはいけないので、生成AIに投入することは許しません”という壁が現れることでしょう。(厄介ではありますが、この壁が現れなかった場合、その企業はAI活用なんてまだしないほうが良いです)

次のステップでは、商品の特性にも関係してきますが、もしも個人情報や機微情報を含む調査であれば、対象となるサイトで生成AIで取得したデータの二次利用が禁止されているかもしれません。

これが大量のデータであれば、スクレイピングの規約にも引っかかるかもしれません。

最後に、取得したデータを企画書に落とし込めるように整形するためには、結構な手間がかかります。これなら最初から自分でデータを取ってきたほうが早かったんじゃないかというケースもあることでしょう。

これは営業職の個人的な業務ですが、例えば経理が大量に請求書を処理する場合でもおなじです。

人事が採用選考を行う場合でも同じことが起きます。私は今バックオフィス系の仕事なので、もっと解像度高く課題を書けるのですが、あんまり詳しく書くのも良くないのでここは割愛します。

しかしスケールすればするほど、つまり業務効率化の効果が大きければ大きいほど、このツール分断の壁が高くなる印象があります。

そしてそれを解決するであろうAIエージェント、最近で言うとChatGPT AtlasなどのAI内蔵のブラウザなどの使用も、セキュリティや安定性の観点でなかなか大変です。

AIに自社のデータを明け渡すことを覚悟が決まっていない企業がまだ多く、自律型で動くAIエージェントやAIブラウザは意図せず訴訟リスクなどを跳ね上げてしまうかもしれません。

プログラムで自動でデータを取得すると割と簡単に検知され、割と簡単にIPアドレスでBANされます。

facebookは過去にAIを使ったスクレイピングに対してチクっとしたこともあるそうです。https://www.axion.zone/metafacebookinstagram/

さらに、AIに情報を取得されたということで裁判沙汰になってるケースは既にたくさんあるようです。

Yahoo!ニュース
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仕事の大部分はレベル100の大型ボスではなく、レベル1の大量のザコ

例えば採用担当の仕事で言うと、平時の仕事は基本的に以下で進んでいきます。

採用要件の検討→求人媒体の出稿やエージェントへの依頼→書類選考→面接→オファー→入社手続き

恐らくこれらは全てAI化できます。AI化するイメージも湧きます。しかし、それぞれに実際に費やしているという時間というのは長くはありません。いずれもボスキャラの仕事達ですが、簡単にAI化ができるうえに、恐らく時間短縮で言えばそんなに効果はなく、生産性を含むアウトプットに関しては、人間がやったほうがマシなものができあがることでしょう。

これらの仕事は採用担当の本質に限りなく近い仕事であり、どちらかというとこれらそのものではなく、周りをAI化してこれらに取り組む時間を割こう、と言われる類の仕事です。

比較して、本質から少なくとも一段以上遠い仕事である、媒体やエージェント各社との契約を巻く仕事、候補者との日程調整、面接での緊急対応(電車遅延で候補者が現れないとか、面接官がインフルエンザとか)、入社者の労務情報の作成などの細かい個別やりとりといった、レベル1の仕事たち。

難易度は限りなく低く、緊急度はかなり高く、決して楽しいことはなく、そして一刻も早く最優先でAI化してほしい仕事たちはどうでしょうか。

これらの仕事のAI化というのが、圧倒的に難易度が高いのです。

それぞれの歴史的文脈や個別事情に合わせたやり取りが必要で、つまり膨大な固有の変数を抱える仕事というのは、恐らく現時点ではAI化できません。

そして最近は、これらに対して呼吸をするように対応できてしまう人間の脳みその出来の良さというものを、私は実感しています。

同時に、この膨大な変数を吸収する能力こそが私のような下っ端の仕事に求められていることであり、価値を生み出すものなのかもなとも感じています。

つまり、あえてAI化しないという判断ができる価値のある仕事は比較的簡単にAI化できて、本質から遠く一刻も早くAI化したい仕事のAI化は非常に難易度が高いという話でした。

そしてこの現象にはすでに名前がついており、”モラベックのパラドックス”と呼ばれています。

繰り返しますが技術的には可能

例えばRPAを使えば、例えばユーザーに一定の不便さを与えることと引き換えにAI化したシステムに引き込めば、オープンソースのLLMをローカル環境に組み込めば、毎日出てくる膨大な変数を解決するプロンプトを考える部門などを作れば、今の問題もおおかたは片付くかもしれません。

しかし、それをやるにはセキュリティポリシーを変える必要があるかもしれませんし、それをやるくらいなら人間に働かせたほうが安上がりかもしれません。

技術的には可能だが実際は不可能という状態なので、コストが下がったり、世界中がAIへ情報を明け渡すのだという潮流になれば、すぐに解決される可能性はあります。

現状では、お掃除ロボットのために床を片づけることと同じように、どちらかというとまだ人間がAIナイズして業務設計をする必要がありますが、いずれはそれも解決されるのでしょう。

お掃除ロボットに階段を登る機構がついたり、ロボットアームが生えてきたように。

余談 神プロンプト!系の情報商材について

一晩でウン十万を稼ぐ神プロンプト集!みたいな情報商材がかなり溢れてきていますが、基本的に買う必要はないと思います。

こういうので解決(?)できるものは、基本的に上で述べたAI化する必要がないもの、実際にはAI化できないものです。

そういうプロンプトが知りたいなら、「そういうプロンプトを教えて」とAIに聞いてください。

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