ドイツの家についての調査。日本でドイツ並みの家を建てる必要はある?

別の記事で、なぜドイツは世界最高と言われるまでに住宅性能を高めることになったのかという歴史的な背景と、しょぼい日本の家に住む人たちの健康被害の差について調査をしました。
ドイツの家と日本の家に見る、住宅性能と健康寿命についての相関性の記事はこちら。

今回は、では実際にドイツの家はどれくらいの性能を誇っているのか、日本との差も含めて調査をしてみました。
住宅価格が高騰している2022年以降、住宅業界……主には高気密高断熱推しの工務店界隈……で血気盛んに取り上げられている住宅性能を追い求める論争に巻き込まれた人に読んでもらえればと思います。

目次

ドイツの家の断熱性

住宅性能で一番わかりやすい数値は外皮平均熱貫流率だと思うので、それを調べてみました。

2013年でちょっと古いデータですが、野村総研が調べたものがありました。ドイツに関してはあまり新築が建たないそうなので、そんなに大ハズレはしないでしょう。

NRIが調べたデータhttps://www.ibec.or.jp/GBF/doc/sem_13th_17.pdf

ドイツは日本でいうと2~3地域にあたるらしいので、それをHEAT20と照らし合わせてみます。

一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会

上記の表に当てはめると、2013年のドイツ基準は現在に当てはめるとHEAT20 G1水準程度と言うことになる。Ua値0.36とか、その辺かなと思われる。

そして、ドイツにおける家庭内でのエネルギー消費と日本における家庭内でのエネルギー消費にはそれぞれ違った特徴があります。

自然エネルギー財団というところからのデータ。この表の右側に注目。

日本ではと言うと、ドイツと同じ地域区分とされている北海道(札幌)と、沖縄では全く事情が異なるよなと思いながらデータを探していると、北海道ガス社が良いものを出していました。

北ガス

やはり寒冷地は暖房に係るエネルギー消費が非常に大きく、ドイツ基準の家を建てることは存分にメリットを享受できそうだ。さすがは新住協発祥の地。

しかし一方でその他全国を見てみると、暖房よりも給湯のほうがエネルギー消費量が大きい私も日本は給湯が一番エネルギーを使うという認識を持っていたので、それは寒冷地を除いた場合ということになる。

そして、ドイツの家について別で調査した記事でも述べた通り、ドイツが住宅の断熱性能を高める施策を推進したのは、オイルショックで痛い目を見て同じ轍を踏むまいと、低いエネルギー自給率を少しでも改善したいという目的がありました。

そうすると、日本の寒冷地以外で断熱性能をドイツ並みにすることは、本来ドイツが狙っていた目的(=消費エネルギーの改善)にはあまり効果がないのではないか、という疑問が出てきます。(もちろん、ゼロではないでしょうけど)

つまり、あくまでもこれまで集めた情報によると、日本の寒冷地以外の地域に建てる家で断熱性能を高めたところで健康寿命は延びないし、医療費は減らないし、暖房費の削減幅も小さいのです。

では、寒冷地以外の地域における高断熱住宅という売り込みはただのマーケティングなのか? というとそうではないはずです。

2022年の平均最高気温・最低気温

ドイツでは、居室において、暖房器具を使って夜間で18℃~23℃以上をキープできないと人権を守れないダメ住宅と見做されるらしいですね。

2地域相当のベルリンと6地域の東京では、年間を通して約5℃の平均気温差がある。極端な話をすると、東京ではドイツほどの断熱性能はいらないにせよ、5℃以上の温度差が生じてしまうほど断熱材を抜くと、ドイツ的に言うと人権侵害ハウスになってしまうということになります。

もちろん、ベルリンと東京では日射による熱量が全く異なるので、日射をうまく取り入れることができればもっと断熱材を薄くしても良いのかもしれないが、今度は夏場の暑さが問題になります。

寒冷地以外の地域での高断熱住宅においては、夏場に真価を発揮するのではないかと思う。最近SNSでは劣勢な、夏を旨とした住宅です。しかしそれは風をいかに通すかではなく、いかに熱を遮り、冷房を効率よく回すかが大事、という旨。

高性能住宅の需要喚起について思うこと

ドイツほどの断熱性能を求めたところで、遥かオーバースペックであることはわかりました。
だから断熱は手を抜いても良い……というわけではなく、断熱性能を何のために高めるのか? が重要ではないでしょうか。

家全体の性能が上がれば、家の中の温度差が少なくなって過ごしやすくなることは間違いないでしょう。
湿度については私がまだ明るくないため勉強が必要ですが、断熱性能を上げると湿度コントロールもしやすくなるらしいです。

そういった付加価値……より良く過ごせることや、数字の安心感、SNSでマウントの武器を手に入れるために断熱性能を高めることが重要であって、あたかも最低でもHEAT20 G2を達成しなければそれはベニヤ板でできた家であるといった論調はさすがに良くないのではないでしょうか。

日本が掲げている省エネ基準でも十分に事足りる地域はたくさんあります。
何もかも世界で一番優れていないといけないというマーケティングはやめてもいいのではないでしょうか。
先進諸国の中で日本の家は最もクソだみたいな話については、比較対象と日本の気象条件が類似している場合に成り立つ話であるべきです。

次世代のために性能を上げたら資産価値が高まる! というのも眉唾です。

次世代のためというのなら、駅に近い土地で多少ニーズに合致せずとも建売を買って使いつぶし、ピンピンコロリでくたばって、引き継いだ好立地に次世代がお金をかけてリノベ・建て替えを任せたほうがよいです。
ドイツだって1976年以前に建てられた性能の低い家も少しずつリノベしながら住み継いでいるわけじゃないですか。

少なくとも今後30年は続くであろう、住宅の一次取得層の世帯数が減少し続ける局面において、利便性メリットが無い土地に建っている建物に金銭的な価値なんてあるわけがないです。
もっと便利な土地がもっと安くなって手に入るようになるというのに、さっきまでUA値がどうとか数字で語ってたくせにいきなり不明確な未来を持ち込んで、情緒的に訴えてこないでほしいです。

人間は課題を解決する

視力が弱った人は、かつて狩りに出られず集団のお荷物となりました。
現代では眼鏡、コンタクトレンズ、レーシックなんていう技術も生まれ、その課題は解決されました。

人間は課題を解決せずにはいられない生き物です。

住宅の高断熱化は、高騰する燃料費や、国防のためのエネルギー自給率にまつわる課題を解決するために生まれた技術の一つです。
エアコンをはじめとする空調機器も同じ。人間は住環境にまつわる課題を不断の努力によって解決してきました。

これからもこの技術の進化は止まらないはずで、目下迫ってきているのはペロブスカイト太陽電池、そして30年後くらいには遂に悲願の核融合発電が実現しているのかもしれない。
3Dプリンター住宅だって、住宅取得コストが高過ぎるという課題を解決するために生まれたわけです。

恐らく寒冷地以外の過剰な高気密高断熱は、ある課題を解決するために発展したのではという考えを持ち始めています。
その課題というのは、工務店の受注難という課題
この1人1台スマホを持っている時代に、HPすらない工務店もあるのが現状です。
そういった工務店にマーケティングのイロハを教えて回っている人間がいると思います。
そいつが、高断熱は売りやすいという話を持って回っているのではないでしょうか。

マーケティングの有名な手法でAIDMAと言うものがありますね。
注意を引き、興味を持たせ、欲求を生み、覚えさせ、行動させる、という客の心理を育てるフレームワークです。

一条工務店が”家は性能”という言葉で市場をぶち抜いた波に乗り、工務店側も性能を売り出すことで注意を引くことができました。
一条工務店は性能が良いけどデザインがちょっと・・・(一条工務店の営業さんもそう言っていたので許してほしい)という人に向けて、自然素材を使った工務店は差別化をしやすかったわけです。

高気密高断熱化は売れる商品であったし、新住協のおかげか実際に世の中での認知度も上がって、googleトレンドで見てみると検索人気度も右肩上がりです。

新建ハウジング 「ZEHで売るノウハウ&高気密高断熱住宅はここを間違えると失敗する」差別化商品の紹介

Make House 儲かる工務店が行っている集客・営業・設計とは?

マーケティングの定石は波乗りらしいです。
右肩上がりのトレンドがあるのであれば、それに乗るのが手っ取り早いんです。

編集後記

断熱材は良いものです。厚ければ厚いほど良い。家中の温度が一定になるし、住んでいてストレスが少ないし、冷暖房費も安くなる。

ただし、一定の水準を超えていれば、健康寿命に影響はないし、ヒートショックは要検証だし、医療費も別に大して安くならない。

数字はわかりやすい。日本という保険大国において、将来の不安を煽ること、そして未知のリスクを伝えることはとても割のいいビジネスです。

それらを踏まえて、住宅を購入する消費者がどこまで必要なのかを判断しなければならないです。
ZEHレベルでは気温差で死ぬのか、ちゃんと考えてから決断するべきです。
あくまでも選択肢は消費者の手にあるのに、あたかも高性能住宅だけが正義であると煽る業界はちょっと心配です。

人間は課題を解決します。
住宅のライフサイクルにおいて、10年後というのはそう遠くはないでしょう。
10年後のエアコンはもっと進化しているし、発電システムも様変わりしているでしょう。
そもそも冬の平均気温も上がってるはず。(これは人間が生み出した課題ですが)

追い求めればよいものになる。しかしそれに期待するパフォーマンスは返ってくるのかどうか、本当に欲しいものを捨ててまで導入するべきなのかは、しっかり考えていきたいですね。

ドイツの家は良いものですが、たくさんの決断と家族との話し合いを通して建てられたあなたの家は、きっと世界で一番良いもののはずです。

Appendix

どれだけこの領域のインターネットが破壊されているのか、ちょっと愚痴です。

断熱性能を高めることによって削減できる空調費が新住協のHPに載っていました。

新住協Q1.0住宅について。120平米のモデルプランでの計算らしい。

東京(練馬)であれば省エネ基準で97千円だった空調費が、新住協が推奨しているQ1.0住宅L-1では44千円となる。半分以下というのはすごい! 年間53千円の差額で、10年で50万円、20年で100万円は差がついてくるという話です。

HEAT20

そしてこれは、HEAT20のパンフレットからの抜粋ですが、ここではなんと暖房費が1/4まで落ちている!すごい! どういう比較をしたのかはわからないのですが、新住協のQ1.0住宅よりよっぽど優れていますね。

断熱住宅.com

な、なんと! 平成28年に制定された省エネ基準は、その前の省エネ基準の半分以下です!
1年間の電気代が52,000円という計算のようですが、新住協の表に当てはめても該当する地域がありません!

つまり・・・これくらいみんな適当な主張をしています。

わかることは、とりあえず電気代は下がりそうだな、ということくらい。
変数が多すぎて個別最適がものをいう世界なのでシミュレーションなんてできないから、みんな好き勝手に条件を入力して計算しているだけ。
だからもっともっとと断熱性能を追い求めてしまう。
天井も、底も見えないし、誰もわからないから。“これくらいで良いな”がわからない仕組みになっています。

住宅関連は不安商法が強いです。
おいしいアフィリエイト案件が多いのかもしれないし、不安をあおるのは確かに金になるんでしょうが、さすがにインターネットを汚しすぎ!!

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • 注文住宅検討中ですが、大変参考になります。
    スーパー工務店への想いの沸騰に、ちょうど良い吃驚水です。吹きこぼれそうになったら、またこちらで冷まさせて頂きます。

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